マイクロソフト社員も知らない新技術 「SPOT(Smart Personal Object Technology)」って何だ?

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2002年11月21日(木)版

マイクロソフト社員も知らない新技術 「SPOT(Smart Personal Object Technology)」って何だ?

日本最速・詳細レポート


■ はじめに

 2002年11月21日、横浜・パシフィコで開催されている「Embedded Technology 2002 組込み総合技術展(旧称:MST)」の基調講演にマイクロソフト本社副社長の古川享氏が登場し、同氏の組み込み機器にまつわる経験、MS-DOS時代のエピソードといった昔話から、話題の Windows Media 9 Series、そして、同社の最新技術である「SPOT(Smart Personal Object Technology)」まで幅広い話題が、豊富でスマートなデモと一緒に紹介された。

 中でも「今週頭の COMDEX(FALL 2002)の中で、ビル・ゲイツもわずか2〜3分間くらいしか語っていない」(古川氏) という最新技術の「SPOT(Smart Personal Object Technology)」について、いつもビル・ゲイツ氏と一緒にマイクロソフトの戦略を研究・検討している古川氏自身の言葉で、背景を交えた解説を聞くことができた。ここでは、海外のメディアに先んじて、SPOTについて紹介してみよう。

Smart Personal Object Technology

■ SPOT = Smart Personal Object Technology とは?

 まだ先端過ぎて、マイクロソフト社の中でも、紹介方法が決まっていない「SPOT」だが、そこをあえて一言で言えば「ネットワークにつながった便利なキーホルダ」というイメージだ。携帯電話より遥かに小型な「冷蔵庫についている磁石」のようなデバイスから、キーにつけるキーホルダデバイスといったものから、腕時計、家庭の中の置時計、といった現在すでに存在しているパーソナル製品の進化版まで、あらゆるデバイスで利用することができるという。

 この中に入っているのは、Microsoftが Windows(95/98/NT/2000/XP)、Windows CEに続く新しい OS で、そのフットプリント(必要メモリ量) はわずか 32K(B) だという。携帯電話ですら32bit CPUを採用し、MBクラスのメモリを搭載する時代にあって、32K(B)は同社のOSとしては驚異的に小さいと言える。(初期のMS-DOS並み?) ※

 これらを実行するためのプロセッサは、現在ナショナル・セミコンダクター社とマイクロソフトが共同で開発中で、もっともシンプルな「冷蔵庫に取り付ける磁石」型のデバイスの場合、発売・配布当初で、コストは $100、普及期に入ると $50〜$30 程度となるという。価格的には、任天堂のポケットピカチュー並みの価格となる。

 このデバイスは後述するように、親機となるWindows XP(またはその後継OS) と連携し、恐らくはその親機を通じて、外部のインターネット上に展開される Webサービスと連携すると見られる。Webサービスとは、同社が提供する最新の開発環境である .NET Framework 上で提供されるXML Web サービスに代表される新しいインターネット上の情報・トランザクション提供プラットフォーム上に作られたアプリケーションのことだ。つまり、親機が存在するとはいえ、「SPOT」は、インターネット上のアプリケーションと動作する世界最小のデバイスとなる可能性が高い。

※ 32K(B)という表記にしてあるのは、32KBの意味だと思われるが、「さんじゅー・に・けー」という発生だったので単位は正確には不明だ。だが、ここで 32Kb(ビット)の意味はないだろうから、恐らくは間違いないだろう。また、このサイズがOSのカーネルのみなのか、典型的な実行環境全体の容量を示すかは残念ながら明言されなかったが、恐らく前者であろうと思われる。

■ SPOT で何ができる?

 具体的な写真等がないので、インパクトには欠けるが、本日の基調講演の中で古川氏が語った「SPOT」の利用イメージを紹介しよう。

◎ SPOT冷蔵庫マグネット

 先ほど最もシンプル、最小と紹介した冷蔵庫の磁石のようなデバイスだが、これは普段は時計として機能している。ところが、ボタンを押したり、そのデバイスに触れたりすると、インターネットから取得したユーザーのお気に入りの最新株価情報を表示してくれるという。あるいは、株価が大きく動いたときには自動的に株価表示に切り替わるかもしれない。あるいはメールが届くと、ぴかっと光るかもしれない。インターネット上のサービスと直接接続されているのがミソで、同じように見えてもデバイスによっては、スケジュールを教えてくれるかもしれない。地道なところでは、スーパーの特売日や、ゴミの日にぴかっと光るだけでも嬉しいかも。

 最近は高機能冷蔵庫の中には、音声メモなどを内蔵したモデルがある。を $50程度の低価格でどんな冷蔵庫にも取り付けることができる。

 もちろん、話の流れで、冷蔵庫磁石になっていただけで、同じサイズなら、車のキーホルダーにつけることも、かばんにぶら下げておくこともできるに違いない。

◎ SPOT目覚まし時計-秘書機能付

 冷蔵庫マグネットはちょっと斬新過ぎて今ひとつピンとこないかもしれないが、もう少し、具体的にイメージできるのが、SPOTを利用した目覚まし時計だ。まず、普通の目覚まし時計について復習? してみよう。

 目覚まし時計の場合、普通にお店で買ってきて、電池を入れたり、コンセントをつなぐと、普通は「12:00」になっている。次に電話やテレビの時報サービス、あるいは携帯電話や時計などの時刻を見ながら、時刻を調整する。
 そして寝る前に、明日の朝起きる時間を考えて、目覚まし時刻をセットする。でもって、朝になると目覚ましが、決められた時間になる。これが目覚まし時計だ。何でわざわざ、SPOT技術を入れて、1万円以上の高級目覚まし時計にする必要があるのか?

 ビジネスマンの朝は忙しい。もしかすると東京支社のビジネスマンの場合、朝10:00から、大阪本社で全体会議があるとしよう。自宅から、羽田空港まで来るまで行って、そこか飛行機で大阪に飛ぶという予定を立てているとしよう。羽田空港まで1時間ほどなので、8:30に自宅を出ることにした。そのためには 7:30 に起きる必要がある。なかなか目が覚めない人なので、10分前の 7:20 から目覚ましを鳴らし始めないと行けない。

 ところが朝起きてみると、外は一面の雪だったら?
 車が大渋滞が予測される上、もしかすると、飛行機が飛ぶかどうかも分からない。安全を考えると、余裕を持った時刻の新幹線を使えばいい。そのためには朝6:30の新幹線に乗らないといけなかった! ということになると、朝起きるのは 5:00 とか 4:30 にしなくてはならない。

 あなたが重役なら、気の利いた秘書がいて、翌朝の天気を調べた上で、雪が本当に積もると、朝きちんと早い時間に電話をかけて起こしてくれるだろう。ところがそんな恵まれた人は、1%もいない。

 その点SPOT対応の目覚まし時計の場合はちょっと違う。

 目覚まし時計を買ってくると、コンセントにそれをつなぐ。すると、自動的に SPOTの技術で「時計」デバイスであることがブロードキャストされる。そうすると、自動的に親機となるPCから、現在時刻情報が届く。時計を合わせなくても、接続するだけで自動的に時刻が調整される。

 夜になっても、明日の時刻を設定する必要はない。
 自動的にオフィスの Outlook のスケジュール表にアクセスする。すると、明日大阪での会議が設定されている。10:00 の会議のために、飛行機のチケットが手配されているので、その時間に合わせて、7:20 に目覚まし時刻を設定してくれる。

 夜ご主人様が眠った後も、この時計はせっせと働いている。定期的に、交通情報と天気予報などにアクセスしている。先ほどと同じシチュエーションの場合、このSPOT目覚し時計は、天気予報で雪が降っていることを知る。そうしたら、交通情報のページにアクセスして、ご主人様の使う飛行機や、そこに至るまでの交通渋滞等を調べて、今回のように飛行機が雪で飛ばない!などの事態になった場合には、自動的に目覚ましを 5:00 にセットしなおしてくれる。

 もしかすると、その延長で、新幹線の座席予約をしてくれるかもしれないが、そこから先は、この目覚まし時計の仕事ではなく、また別のSPOTか、母艦のパソコン、あるいは、MSNの有料サービスで実現するイメージになるだろう。

 まとめてみると、SPOT目覚まし時計は、下記のような知恵と工夫を働かせてくれたことになる。Webサービスが普及し、サーバー自体が「UDDI」サービス等を利用して、ネットサーフィンできるようになると、こんな世界も夢ではない。

  1. 初期設定が自動的に行われた
  2. オフィスのご主人様の予定を見て、自動的に明日の目覚まし時間を決定
  3. 突然のアクシデントを察知し、その影響を調査
  4. 結果として朝もっと早く起こしてくれる
  5. 翌日から、また普通の時間に起こしてくれる

 ここまでできて、SPOTに必要なメモリは、32K(B)という、いまどきどんなデバイスにも搭載されているメモリ量の数分の一(あるいは 1,000分の一)で実現できてしまう。場合によっては、CPUに内蔵されているメモリ搭載量で実現できるのが特長だ。


ビル・ゲイツもほとんど語っていない極秘技術「SPOT」
に熱弁を振るう古川氏。

■ 本当に実現するのか? 必要なのか?

 ここまで読んで感じるのは、この「SPOT」に懐疑的な人もいるだろう。別に目覚まし時計は、今のままで十分。今まで20年間 (人によっては、10年間 〜 70年間) 使ってきたのだ。同じインターフェースでいいじゃないかというわけだ。実は筆者もそう思う。

 しかし、この「SPOT」は、独立したデバイスでも $50 で作れるというのだから、これらを既存のPDAや、携帯電話、PC にも入れてみたらどうだろう?ほとんどコストアップはないはずだ。車のダッシュボードにも組み込めるかもしれないし、DVDプレーヤーや、HDDレコーダーに内蔵してもいい。例えば、VHS や HDDレコーダーのような機械に入ったらどうなるか。

 自宅のコンセントにつないだ瞬間に、時刻が現在時刻に設定され、住んでいる地域を認識して、自動的にチャンネルを設定してくれるだろう。さらには、専用の EPG をダウンロードしてきてくれ、放送時刻が変更になったのを察知して、録画開始時間を変更してくれるかもしれない。

 しかも、こうした「ちょっと賢い」機能を実現するためのコストアップは、限りなくゼロなのだ。

 もちろん、そうした高機能な機種向けにはマイクロソフトは、Windows CE OS の組み込みを推奨しているため、すぐには、そうした使い方はされないかもしれない。しかし、今後、Webサービスの普及とともに、それを、このコンパクトなデバイスで受けられるのは、面白い。しかも、これは未来の技術ではなく、来年初頭の CES2003 で正式発表され、即使えてしまうものなのだ。Webサービスインフラが未成熟な点は気になるが、こうしたデバイスが先に登場することで、ニワトリが先か、タマゴが先かという無益な論争が避けられる。マイクロソフトはタマゴを用意した。後は、誰がニワトリになる?

 WindowsXP、Pocket PC 2002、Microsoft .NET Server、Internet Explorer 6.0、Office XP、とマイクロソフトの既存製品はいずれも成熟の域に達してきている。それなのになお、こうした新しくて、よく分からなくて、成功するかどうか分からないデバイスが投入されてくる。それだけでも、マイクロソフト以外のサービス/デバイス開発者にとって刺激になる。その上、成功すれば、エンドユーザーにとっても、さらに生活が便利なものになっていく。「SPOT」の今後が楽しみだ。



Reported by けいたん


Last-modified: Sun, 24 May 2009 23:45:30 JST (3105d)